吃音症の方にとって、ほぼ例外なく苦手なのが電話です。家に罹ってくる電話、職場での電話対応など、日常生活に深く根差す電話というツールが吃音を持つ方にとってこの上なく恐ろしい機械です。
なぜ、吃音症の人は電話が苦手で怖いのでしょうか?結論から言うと、電話は話し方に大きく左右されるツールだからです。伝わる話し方をしなければならないというのは、吃音症の人にとっては高いハードルとなります。
人は見た目が9割?
少し前に「人は見た目が9割」という本がヒットしました。読者のレビューを見ると賛否両論でしたが。
本の内容はともかくとして、この作者がどこから「9割」という数字を持ってきたかというと、アメリカの心理学者アルバート・メラビアンの有名な法則がベースになっています。
メラビアンは、人の印象は「態度や表情55%、話し方38%、言葉7%」だとしています。つまり言葉の内容よりも、醸し出す雰囲気や表現力が相手に伝わるというわけです。「何を言うか」よりも「どのように言うか」のほうが重要だということになります。
言われてみれば確かにそうだなと思わされます。特に言いにくいことなんてそうじゃないでしょうか。
- 上司のミスをさりげなく気付かせる
- 同僚のズボンのチャックが開いている
- 好きな人に告白をする
「私はあなたが好きです」と事実だけを伝えるということはまずありません。いつ、どんな風に言おうかとさんざん悩みますし、意を決して伝える時も身振り手振りを交えて、表情もプラスして、何とか相手に自分の気持ちを伝えようと努力します。
電話は話し方が命
とすると、問題は電話です。メラビアンの法則からすると、自分の表情や身振り手振りはお見せできませんから、既にコミュニケーションの55%が欠けてしまっています。
話し方と言葉(内容)で全てを伝えなければなりません。
このことからわかるのは、電話は話し方が命ということです。
話し方が38%に対して言葉は7%ですから、話し方・表現に比べればどんな内容を言うかというのは5分の1程度に過ぎないことになります。
電話の向こうにいる人は、私たちが「どのように話すか」によって、「わかった」「なるほど」となるか、「言われていることがよくわからない」となるか、大きく分かれることになります。
声の調子や速さ、抑揚、適度に間を開けることなどの「話し方」が、電話では求められてくることになります。
電話が伝わりにくい理由、機械を通しているということも。
さらに、電話が伝わりにくいのは相手が見えないからというだけでなく、生の声ではないということも関係します。対面なら声帯から出た音の波がそのまま相手の耳の鼓膜に届きますので、吃音でも単語や言葉の音を聞き取ることができます。
しかし、電話は機械を通した音が伝わるので、発したままの言葉、音が届くわけではありません。かなりの程度、音の情報がこぼれ落ちて相手方に届けられます。ですから、相手が聞こうという姿勢があっても、理解できないということが生じます。
吃音の人にとって電話が怖い理由
ここまでの内容で、特に吃音もなくスムーズに話せる人であっても、電話というのは実はなかなか難しいツールであることがわかりますね。
であれば吃音を持っている人ならなおさらです。話す内容は決まっていても、話し方の面でつまづいてしまい、相手にうまく伝わりません。
その結果、「何を言っているのかわからない」「ふざけているのか?」と言われてしまいます。その辛い経験が重なって、電話が怖くなるのです。
これは電話の相手が吃音を理解してくれている場合でもあまり変わりません。電話で伝えることには限界がありますから、『理解しようとしてくれるのにうまく伝えられない』『迷惑をかけてしまったな』と思ってしまって、電話が苦手になるのです。
そして、「苦手」「怖い」と思うと増々電話口でどもってしまい、『やっぱり駄目だった』と負の連鎖を起こすことになります。
今はメールやLINEで連絡を取ることが多くなっていますが、やはり電話も使われる場面が増えてきています。対面でのコミュニケーションが少なくなった現代、吃音の本当の原因を理解し改善していく必要はより大きくなっているといえると思います。